生石高原の麓から

和歌山の歴史・文化・伝承などを気ままに書き連ねています

緑の雇用事業(和歌山県の提言が国に取り上げられた施策)

 「和歌山あれやこれや」のカテゴリーでは、県内各地に伝わる歴史や伝承などを気ままに紹介していきます

 

 今回は、和歌山県知事の提言が国を動かし、現在も過疎・山間地域活性化の中核的事業として続けられている「緑の雇用事業」について紹介していきます。

全国森林組合連合会が運営する「緑の雇用」webサイト
「緑の雇用」とは? - 森林の仕事、林業で働きたい方の就業を支援『緑の雇用』RINGYOU.NET

 平成13年(2001)4月26日に内閣総理大臣に就任した小泉純一郎首相は、「郵政民営化」を最大の旗印として、いわゆる「聖域なき構造改革※1」を強力に推し進めました。
※1 聖域なき構造改革 - Wikipedia


 政府による公共サービスを民営化などにより縮小し、市場にできることは市場に委ねること(「官から民へ」)及び国と地方の役割分担を抜本的に見直すこと(「中央から地方へ」)を大きな改革の柱とする小泉首相の方針には各界からさまざまな意見が噴出し、賛否両論が渦巻きました。
 そんな中、朝日新聞が企画した「私の視点 特集・小泉構造改革」という全国版の特集記事の中で、木村良樹和歌山県知事(当時)が投稿した次のような提言が話題を呼びました。

地方活性化 山の環境保全で雇用創出
           木村良樹 和歌山県知事

 小泉構造改革が閉そく感打破を望む国民の期待の中で支持される一方、経済の状況は深刻さを増している。経済のグローバル化が進む中で、市場効率の悪い部分を整理し、人材や資源を成長分野に移していく必要があることは明らかだ。しかし、秋から年末にかけては深刻な失業や地方経済の衰退も想定され、構造改革への支持に迷いが生じてきているようにも思われる。
 このような中、来年度予算重点7分野が示されたが、私は、7分野のうち環境問題、地方の活性化、高齢化の3分野にまたがり、雇用の創出にもつながる森林、清流など中山間部(山あいの地域)環境保全対策を、ぜひ政策の柱の一つに加えてもらいたいと考えている。
 構造改革の過程で多くの人が仕事を失うといわれている。これをITなど他の成長分野で吸収するということだが、それだけでよいのだろうか。人間は機械ではない。適応性の問題もある。自殺者が急増している状況を考えれば、雇用の受け皿の多様化を図ることが必要である。
 その一つとして山あいの環境保全を加えれば、雇用の受け皿の幅が広がり、高齢化が進む地域コミュニティーの活性化にもつながる。京都議定書問題※2でも森林のCO2の吸収機能がクローズアップされており、環境への取り組みという観点からも意義がある。
 職を求めて都市から農村に移り住むIターンを望まなかった地元の人も、高齢化で、ぜひとも若い活力を望む方向に変わってきている。田舎で活動したい人とそれを望む人双方がいるのにうまくかみ合わないのは、林業が低迷を続ける中で、今の中山間地域には所得を保障する仕組みが欠けているからである。
 私は、住民対話の中で、「都会から移り住みたいという問い合わせに、本当は来てほしいのだが収入のことを考え、来ない方がよいと答えている」という話を聞き、もどかしい気分を味わった。
 森林組合や非営利組織NPOなどを軸に新しい形での中山間環境保全組織を作り、都会からは新天地を求める人を、地方からは公共事業が減って貴重な雇用の場を失った人を受け入れる。経済効果という点から見れば評点は低いだろうが、人間の尊厳と環境を重視するという点からは国際社会でも高い評価を得られると思う。
 環境管理に焦点をあてた施策は、地方の公共事業に厳しい都会人の声援も期待でき、ふるさとを持たない都会人の急増による都市と地方の対立の緩和に役立つ。小泉構造改革は、地方交付税や国庫支出金の削減など性急さが目立ち、経済効率が重視されすぎているともいわれる。この改革に厚みを持たせ、自主的な受け皿組織作りを通じて地方の自立にもつなげるという点から、一考を求めたい。
(2001年8月21日 朝日新聞全国版)
※2 平成9年(1997)12月に国立京都国際会館で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で採択された気候変動枠組条約に関する議定書。地球温暖化の原因となる温室効果ガスとされる二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素等について、先進国は国ごとに設定された削減目標を一定期間内に達成することが定められた。京都議定書 - Wikipedia

 

 木村知事は、同年9月3日に記者会見を行い、上記投稿の内容をより具体化した「緑の公共事業で地方版セーフティネット」という提言を三重県北川正恭知事(当時)との連名で発表しました。その内容について、木村知事は平成13年9月定例県議会で次のように説明しています。

 これは、実は私がかねてから考えておりまして、新聞に投稿し、そしてまた、お話がありましたように三重県北川知事--何といっても、森林関係等は和歌山と三重県は山林を所有している方も共通している場合がありますし、非常に関係の深い県でございます。そういうこともあって、私が思いつきました緑の雇用事業、これを何とか三重県と一緒にやりませんかという話を北川知事に申し上げましたところ、ご快諾をいただきまして、そして共同提言という形でアピールをしたところでございます。
 何かといいますと、今、都市と地方、中山間、こういうところは非常に人的な交流が細っておりまして、片方では都市的ないろんな問題を抱えて自分のところ中心の見方になる。そしてまた中山間はどんどん過疎化が進んでいくと。こういう中で、新たな人口流動を起こさないと二十一世紀の日本は十全たる発展をできないんじゃないかというのが私の考えでございます。
 そしてちょうど、今度、小泉構造改革の中で「痛みを伴う改革」ということで、たくさんの雇用を失う方々が出てくるとか、それからまた、一般の方々の中にも自然とか憩いとか、そういうものを大事にする風潮が出てきている。一方、先般の京都議定書の問題の中にもありましたように、森林のCO2の吸収ということが非常に高く評価されている。こういうふうなことを結びつければ、都市の人にも一定の理解を求めることができる産業といいますか、事業というようなものを、人口流動と絡めて地方で起こすことができるのではないかというのがこの緑の公共事業雇用事業というのを考えついた原因でございまして、その中には、今和歌山県にはたくさんの森林がありますけれども、八十年ぐらいたった木じゃないと切っても値段が出ないということで、山が非常に荒れてきているというふうな現状もあります。これは、ただ単にそういうような経済的な問題だけじゃなくて、日本の国全体として守っていくべきものを守れなくなってきているという極めて厳しい現状があるということで、これを今の構造改革の中で訴えていったらうまくいくんじゃないかなという発想で行ったわけです。
 先般も東京へ行って、総理大臣にはこういうテロ事件※3が起こりましたのでお会いできなかったんですけれども、環境大臣、そして農林水産大臣にお会いすることができまして、どちらも「これは非常にいい」と。「既にこういうふうな方向で補正予算の事業に取り上げていく努力をしている」という、力強いご示唆というか、あれを受けたんですが、ただ、実は、議員の方々もご案内のように、先般も緊急雇用対策ということで何年か前にそういうような事業があったことがありました。だけどそれは非常に短期的なものに終わってしまって、例えば六カ月間一定の雇用をしたらお金を出すと、そういうふうな仕組みだったんですけれども、私が考えておりますのは、やはり長期的に都会の人とか、それから地方で仕事を失った若い人なんかが中山間に定住してくれるというふうな仕組みということを考えてほしいと思っておりますので、その点を先般強く訴えてまいりました。どの程度ご理解いただけたか、なかなかわからないところもありますので、この問題についてはこれからももっともっと力強く関係各県と手をつないで運動を繰り広げてまいりたいと思いますので、ご支援方よろしくお願いを申し上げたいと思います。

平成13年9月 和歌山県議会定例会会議録 第2号(平越孝哉議員の質疑及び一般質問) | 和歌山県議会
※3 この議会は、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件の直後に開催された。

 

 ちなみに、木村知事と北川知事との共同アピール木村知事が単独の記者会見で発表したことについては、発表翌日の三重県での記者会見で北川知事が次のように説明しています。


(質)このアイデアというのは、もともと和歌山県知事の発案だったんですか。
(答)基本的には和歌山県の知事で、私ども、何回も彼と話し合っていますから、お互い政策を言い合いしているわけですよ。例えば私が、環境林を10年間はもう絶対切らないという約束のもとに我々はゾーンを作り上げますよと言うと、それはよろしいですなというような話をしながら、紀伊半島をどうするかという時に、地域対策でどうするかというようなこと、あるいは、ひょっとすると都市再生ということが地方の切り捨てにつながる場合もあって、不安感を助長しているわねというようなことを話ししてきたら、朝日新聞か何かに彼は投稿していたんですね。それも前に、僕に、「北川さん、これで出したいな」というような話があって、やったらどうというようなことになって、それで打ち合わせして、「じゃ、あなたが中心にやってくれや」ということで、彼が昨日やって、今日私から皆さんにお話しましょうと。昨日投げ込みはした。そんなことですから、和歌山県中心に進めたら、僕はいいと思いますね。一緒にやります。
三重県|知事定例記者会見:知事会見 会見録 平成13年9月4日

 

 当初、木村知事と北川知事による共同アピールでは「緑の公共事業で地方版セーフティネット」との題名が付けられていたのですが、上記の和歌山県議会での答弁では「緑の雇用事業」という呼び方に変更されています。この経緯については、2県の知事による提言から全国26府県(後に29府県)の知事による共同提言へと広がっていく際に、当時マスメディアが無駄遣いの象徴のように連日「公共事業」を批判する論調を繰り返していたことから、あえて「公共事業」という名称を使わないように変更したものと伝えられています。

緑の雇用事業」を国に提言へ  26府県知事
      2001.9.21(金) 化学工業日報
 木村良樹和歌山県知事と北川正恭三重県知事が今月初め、森林管理など自然環境の保全を目的とした公共事業を実施することにより、雇用の受け皿を創出することを政府に要望して行った緊急アピールについて、他の24府県の知事と連名で改めて国に提言することが決まった。
 和歌山県によると、アピール「緑の雇用事業で地方版セイフティーネット」の国への提言について、両県を除く45都道府県に協力を呼びかけたところ、24府県が賛同。先ごろ内閣官房環境省に出向き、提言することが決まったほか、小泉純一郎首相にも提言書を直接手渡したいとしている。
 アピールは、雇用の拡大に向け、森林や河川といった自然環境の回復や再生を目的とした「緑の雇用事業」の創設を提案したもの。当初は「緑の公共事業」だったが、公共事業はイメージが悪いとして「雇用事業」に変えたという。
追記
24府県は、その後27府県になった。
北海道・青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島・茨城・栃木・千葉・神奈川・新潟・福井・山梨・岐阜・愛知・滋賀・京都・兵庫・奈良・鳥取・島根・徳島・香川・愛媛・高知・佐賀
(提案者 和歌山・三重)  計29府県 

参考:長良川のホームページ(筆者注:追記はブログ作成者によるもの)

 

 この提言は国でも重大な関心をもって受け止められ、結果的には平成13年度補正予算に盛り込まれた「緊急地域雇用創出特別交付金(3,500億円)」の代表的な使途のひとつとして「森林作業員等による森林整備の強化等を通じて環境保全を図る」という事業が大きく取り上げられることとなりました。
平成13年度厚生労働省補正予算案の概要

 

 この事業開始当初の和歌山県の取り組みについて、佐々木太郎氏らは「第116回 日本森林学会大会」において次のような報告を行っています。

和歌山県における緑の雇用事業の推進
    佐々木太郎(名大農国)小川三四郎(全森連)中川秀一(明大商)興梠克久(林政総研)
(略)
 和歌山県における「緑の雇用事業」とは、「森林が持つ公益的機能に着目し、その環境保全事業を展開することによって、新しい雇用やビジネスチャンスを創り出し、都会と地方の交流を促進して、地域の活性化を図るという事業」であり、総合的な推進を図ることを目的としている点に大きな特徴がある。2001年9月3日、「緑の雇用事業で地方版セーフティネット」という緊急アピールを発表し、それは、平成13年度補正予算における3,500億円の「緊急地域雇用創出特別交付金」の中に盛り込まれることになった。しかし、多様な内容を持つ和歌山県のそれと異なって、多くの県において緑の雇用事業はとりわけその森林整備と雇用創出事業としての側面が注目されているに過ぎない。ここでは、和歌山県緑の雇用事業を、①森林整備、②新規就業者対策、③地域活性化という3本柱の事業として検討する。
 緑の雇用事業で研修生を受け入れている事業体は森林組合に限られている。これは緊急地域雇用創出特別交付金事業の当初から森林組合を担い手として想定していたからである。2002年度の実績としては、県外から、森林作業に関連した緊急雇用対策として123名、その他の自営業で10名の人口流動を実現した。これらの都市からの人口流動は、103世帯151名、平均年齢38.2歳である。この緊急雇用対策で森林作業に従事した123名のうちの85名に県外からの8名を加えた93名が、2003年度の「担い手事業」に従事している。緊急雇用対策事業に従事した者のうち7割弱が継続して雇用されたことになる。2003年度については新たに168名、2004年度も111名の都会からの新規就業者を確保している。
(以下略)

和歌山県における緑の雇用事業の推進

 

 また、これ以後の状況については阪井加寿子氏が「食農総合研究教育センター 研究成果 第14号」において「第18章 和歌山県における移住・定住施策」として次のように報告しています。

 和歌山県における緑の雇用事業の2002年から5年間の実績は、表3(筆者注:本稿では省略)のとおりである。林業労働者は、森林組合に雇用され、2002年には465人が林業研修を受けた。当初、6カ月間の短期雇用であったが、その後、緊急地域雇用創出特別交付金事業、緑の雇用担い手育成対策事業林野庁事業)和歌山県の単独事業を通じて、合計3年間の継続した雇用が可能となり、2003年は705人、2004年は596人、2005年は329人、2006年は261人が研修を受け、森林作業に従事した。
 緑の雇用事業による県外からの移住者は、5年間で461人である。各年度の移住者の平均年齢をみると32歳から39歳で、若い世代が移住し、森林作業に従事している。長引く景気低迷により都市部の雇用力は低下し、地方に目を向ける若者があらわれた。自然や田舎暮らしを志向する若者が、林業研修生として農山村に移住してきた。このような移住者の若い家族は、地域の担い手として地元からも歓迎された。
 研修を終えて引き続き林業を続ける移住者もいたが、森林作業から離れる者や、再び他の地域に移転する者もいた。緑の雇用で移住したIターン者のうち、当該年度末において、林業に従事するIターン者、及び林業から離れて企業等へ就職または自ら起業するなどして県内に居住するIターン者をみると、緑の雇用事業開始から5年後の2006年度末には、引き続き林業に従事するIターン者は152人、また、林業から離れて就職・起業等のIターン者は123人であり、併せて275人が、県内で地域の担い手として生活している。これは、緑の雇用事業によるIターン者の約60%となっている。
 また、緑の雇用事業で移住してきた移住者の住まいの確保のため、2003年度から「緑の雇用担い手住宅」が整備された。農山村では賃貸住宅がほとんど存在しないことから、林業に従事するIターン者の住宅として既存の公営住宅を使うとともに、木造平屋建ての世帯向け賃貸住宅が整備された。緑の雇用担い手住宅の状況は表4(筆者注:本稿では省略)のとおりである。市町村合併があったため11市町村になっているが、現在、55棟ある住宅には、森林組合の職員や民間の林業従事者等が入居し、生活している。このような県内各地の農山村に緑の雇用事業で若い家族が移住し、地元の住民が受入れたという経験は、その後の官民連携の移住支援につながっていく。

研究成果 | 和歌山大学

 

 冒頭で紹介した全国森林組合連合会が運営する緑の雇用」webサイトをご覧いただくとわかるように、現在では山村地域、特に林業に携わる人々にとっての最重要施策のひとつとして位置付けられている「緑の雇用」ですが、この事業は決して初めからこれらの人々に歓迎されたものではありませんでした。
 端的に言えば、この「緑の雇用」事業というのは「もともと林業や田舎暮らしとは縁もゆかりもなかった都会の人々を地方に呼び寄せて税金で給料や住居の面倒をみる」というものですから、昔からその地域に住み、林業などを生業としていた人たちからすれば「都会の人間に税金をやるくらいなら、もっと自分たちの生活を楽にするために税金をつかって欲しい」という要望が噴出するのは当然のことだったと言えるでしょう。

 

 このとき、和歌山でこの事業の実現のために尽力したのが県の林業部門のトップにあった幹部職員でした。この職員は県内各地で過疎対策や林業に携わる関係者を集めてこう語りました。※4
皆さんが過疎や林業不振で大変苦しい思いをしていることは十分にわかっている。だから、国や県が勝手に都会の人間を呼び集めて税金で面倒をみるくらいなら、もっと自分たちの生活を助けるべきだ、と言いたい気持ちは痛いほどわかる。
 けれども、よく考えて欲しい。皆さんの周りに若い人がどれぐらい住んでいるだろうか。税金を使って、いま、皆さんの生活を助けたとしても、このままでは10年後、20年後に皆さんが住む集落は無人の廃墟となってしまうのではないか。今ならまだ間に合う。皆さんの体が動くうちに、都会から来た若い人に皆さんが身につけてきたものを全部伝えてやってほしい。全員がうまく行くことはないだろうが、それでも何人かが残ってくれれば、集落はこの先もずっと残り続けることができるかもしれない。
 都会の人を受け入れるのは嫌だ、自分たちの生活を守ることが一番だ、と考える人たちの考えは理解できるし、尊重もする。だから、この事業に協力しない地区があってもそれはかまわない。しかし、そんな地域は現在住んでいる人たちが高齢化するにしたがって確実に先細りになり、やがては消滅してしまうだろう。それは覚悟してほしい。
 自分たちの住む地域の将来を考え、少しでも若い人を地域に呼び込みたい、と考えるのであれば、ここはひとつ、種々の不満をぐっと腹の中に押し込めて私たちに協力してほしい。皆さんの力が頼りだ。

 うっすらと涙さえ浮かべながら語る県幹部の大演説は今もなお語り草となっており、これによって和歌山県での「緑の雇用」の成功が約束されたと言っても過言ではないと言えるでしょう。
※4 発言の内容は筆者が再構成したものであり、実際の発言とは異なる。

 

 今から振り返ると、この事業は和歌山県の行政において
地域の将来を考える人たちはこの事業に協力してほしい。地域の将来よりも自分たちの今の生活の方が大事だと考える人たちは協力してくれなくても構わない。ただし、その場合、地域が衰退することとなったとしてもその責任はその道を選択した人たち自身にあることを理解してほしい。
ということを明確に語った最初の例ではないかと思います。

 

 事業が始まってから既に20年以上が経過していることになり、この事業が本当に過疎・山村地域活性化の特効薬となったのかということについては賛否両論があるようです。
 しかし、この緑の雇用」事業があったからこそ都会の人々にとって過疎・山村地域への移住が現実的な選択肢として浮上するようになったことは間違いなく、後に大きなブームとなる「田舎暮らし」のきっかけ作りとして重要な役割を担ったこと間違いないと言えるでしょう。
 また、「緑の雇用」が森林整備や自然環境保全を主要な目的と位置づけていたのに対し、地方におけるこれ以外のニーズにも都会の人々の力を借りようとして始まった事業が「地域おこし協力隊」制度※5であると言えるわけで、「地域おこし協力隊は緑の雇用事業のフォロワーである」と言っても過言ではないでしょう。
※5 地域おこしに興味のある都市部の住民を自治体が「地域おこし協力隊員」として雇用(形式的には委嘱して報償費を支払う)し、農林水産業への住持や産品の開発、住民生活の支援などの活動に従事させる制度。地域おこし協力隊 - Wikipedia

 

 後に談合事件で知事在職中に逮捕され、辞職後に有罪判決を受けるという和歌山県政史上最大ともいえる汚点を残した木村良樹氏ですが、氏が提唱した施策は現在もなお国の重要施策として存続し続けているわけで、これは皮肉と言うべきなのでしょうか。