「モータースポーツ回顧録」のカテゴリーでは、過去の個人サイトに掲載していたモータースポーツ関連の記事を再掲していきます。
今回の記事は1997年2月に白浜町の旧南紀白浜空港跡地で開催された「エアポートジムカーナ IN 白浜」という競技会の話題です。
下記の記事の中でも触れていますが、「ジムカーナ」というのは、舗装された広い敷地の中にパイロン(いわゆる「三角コーン」)などを並べてコースを設定し、そのコースを一台ずつ順番に走行して、その走行タイムを争うというモータースポーツです。
通常のレースとは違ってコースを走るのは一台だけなので他の車両と接触する危険性がなく、性能に応じて細かくクラス分けされており日常生活に使用している車両でもテクニック次第で上位入賞の可能性があることなどから、モータースポーツ入門者に大変人気のある競技となっています。(もちろん全日本選手権クラスになると非常にシビアな争いが繰り広げられていることは言うまでもありません)
今回の記事は、そのジムカーナ競技が1997年に旧南紀白浜空港跡地で開催された際の模様を紹介するものです。
詳しくは後述しますが、1968年に開港した旧南紀白浜空港は滑走路の延長がわずか1200mと短くジェット機の就航が不可能であったことから、隣接地に新たな空港を開設することとなり、1996年に1800mの滑走路(後に2000mへ延長)を有する(新)南紀白浜空港空港がオープンしました。これにより旧空港の跡地が空地となったため、今回はこれを活用してジムカーナを開催するに至ったのです。
JMRC近畿フレッシュマンシリーズNo.2
マッシモ和歌山シリーズNo.1
エアポートジムカーナ IN 白浜
2月末といえば世間ではまだまだ寒さ真っ盛りの時期。しかし、南紀の春の訪れは早く、全国に比類するもののない梅の大産地である南部(みなべ)の梅林では観梅に訪れる観光客でおおいに賑わっている。
そんな中、日本最古の温泉地でもある和歌山県白浜町でジムカーナの大会が開催されました。今回はサーキットを離れて、和歌山で行われたジムカーナのレポートです。
ジムカーナといえば、スキーの回転競技のようにコースに立てられたパイロン(工事現場でよく見かける赤い三角錐状の標識)の間を、決められたコースに従っていかに速く走れるかを競う競技です。レースとは違って、一度に一台しか走らないところから危険は極めて少なく、またクラスによっては普段通勤に使っている普通の自家用車でも出場できるところから、モータースポーツの入門編として人気があります。F1やフォーミュラ・ニッポンが「観戦するモータースポーツ」であるのに対して、ジムカーナは「参加するモータースポーツ」であると言えましょう。
さて、今回の「エアポートジムカーナ」は、その名のとおり空港を会場として開催されました。空港といっても、実際に飛行機が飛び立っている場所で競技を行うことはできませんが、ここ白浜町では平成8年3月にジェット化された新空港が開港したため、それまで利用されていた旧空港がそっくりそのまま空き地になって残っているのです。YS-11専用空港のようなものでしたから、滑走路延長は1200mしかありませんが、ジムカーナをするには十分すぎるほどの面積を確保することができました。
今回のコースは、旧空港ターミナルビル前のエプロン部分と滑走路の北側半分を利用した全長約2100mの設定になっていましたが、特に滑走路部分のコースはジムカーナとしては珍しいほどの高速設定になっており、普段は自動車教習所などを使って競技をしている参加者にとって久々にアクセルを思い切り踏み込むことのできる大会になったようです。
午前10時頃。今回の競技は無改造市販車のクラスとAクラス(ナンバー付き車検対応改造車)のみの開催という事で、全車両が公道を自走してきた。全日本クラスならともかく、今回のような入門クラスでは専任のメカニックがいることはほとんどなく、競技前の点検も、タイヤ交換やエンジンのチェックも全て自分でやりきるのがこのクラスの常識。
なお、今回のクラス区分は次のとおり。
クラス区分 | 規制 | 代表的な車種 |
FR | 無改造FR車 | トレノ、レビン等 |
GN-2 | 無改造車 | ミラージュ、カローラ等 |
A-1 | 改造可 1300cc以下 | シティ等 |
A-2 | 改造可 1600cc以下 | シビック、ミラージュ等 |
A-3 | 改造可 1600cc以上 | インテグラ、MR2等 |
A-4 | 四輪駆動車 | ランサーエボリューション、インプレッサWRX |
旧空港ビルの隣の小高い丘が臨時の観戦ポイントに。風が直接当たれば寒いものの、快晴に恵まれて結構な数のギャラリーが集まった。もちろん入場料は無料だが、主催者発表で観戦者数500人というところか。
この丘の上からは、若干距離はあるものの、後半のテクニカル部分の競技をじっくりと観ることができ、なかなか面白いポイントとなった。また、場内放送も行われており、各選手の一本ごとのタイムがすぐに判るよう配慮されていた。
いよいよ競技開始。スタートラインへ順番に整列し、一台ずつスタートをきる。先にスタートした競技車両は、まず滑走路部分の高速セクションを走った後、エプロン部に設けられたテクニカルセクションへ進入する。先行車両が、このセクションに設けられた270度ターンや三角形ターンなどのコースを縫うように走っている間に、次の車両がスタートフラッグの合図で滑走路へ駆け出していく。
こうしてこの日参加した77台の車両が途切れることなく競技を続け、第一回目の試技は約2時間で終了する。その後、休憩を挟んで二回目の試技を行い、この二回のうち良い方のタイムが最も短い者が優勝者となる。
基本的にはスキーの回転(スラローム)競技とほぼ同じシステムになっており、一般には「ジムカーナ」と呼ばれているが、「四輪自動車によるスラローム第一種競技」というのが正式な名称である。
普通の個人が毎日通勤に使用している車で参加することができるのがジムカーナの魅力の一つ。とはいえ、シティ、インテグラ、ミラージュ、ランサーエボリューション、インプレッサWRXなど、ジムカーナに使用される車種は自ずから絞られてくるもの。こうした風潮に果敢に挑戦・・・しているわけではないと思いますが、中には微笑ましいような車種が参加していたりします。
写真は、グループZZ所属の本田和子選手が操るBe-1。登録車名は「老車にムチうち迷走Be-1」。ニッサンの少量生産車のはしりとも言えるBe-1が、車体を大きく傾けながらパイロンをクリアしていく姿は、可愛くもあり、おかしくもあり、また真剣な姿勢もうかがえて、なんとはなしに感激してしまいました。
こちらは近畿大学所属の山口崇選手。登録車名もそのまま「まちのりカローラです」。
サスペンションも改造していない、全くの市販車そのままですから、パイロンをクリアするたびに車体が大きく右に左に傾くのがご愛敬。ある意味で、こうした無改造クラスの方が上級クラスよりも操縦は難しいのかもしれません。
少しでもタイムを縮めるためには、できる限りパイロンぎりぎりのラインをとってスピードを落とさないように小回りをするのがポイント。しかし、逆にあまり小回りをしすぎるとパイロンに接触したり、写真のようにパイロンに衝突してしまうケースも。
もちろん、パイロンに接触すると減点の対象になり、せっかくタイムを縮めても上位入賞は望めません。
小さい車体にパワフルなエンジン、FF車とは思えないハンドリング性能を持っていたことから「コーナリング・マシーン」と呼ばれ、手軽なモータースポーツ入門車として人気の高かった先代のホンダCR-X。
ジムカーナの世界ではまだまだ現役でがんばっている車が多いようで、今回の競技でも軽快なターンを見せてくれていました。写真のマシンはハイカラモータースポーツクラブの竹田宏太朗選手が操る「はるばる来ましたCR-X」。
滑走路の北端付近を走行する福井章浩選手の「三菱電機姫路MSCミラージュ」。白浜の温泉街をバックにアクセルを一気に踏み込む姿は実に気持ちよさそうです。(と言っても、競技中の選手には景色を楽しんでいる余裕なんかあるはずはないですけどね)
滑走路部分の高速セクションに設けられたパイロンをクリアしていく辺見和也選手の「ファインアート山中インテグラ」。バックに見えるのは、旧空港のターミナルビルと新空港の管制塔。
空港跡地に設けられたサーキットといえば、イギリスのシルバーストーンが有名だが、この白浜空港跡地もモータースポーツのメッカになる可能性はあるのか。
全てのパイロンをクリアして、ゴール地点でチェッカーフラッグを受ける山中健司選手の「ファインアートOMインテグラ」。実はこの車両は「49」と「54」という2つのナンバーを持つダブルエントリー車で、上の辺見選手と山中選手が同時に使用している。
ナンバー49の辺見選手が試技を終えると、一旦駐車場へ戻り、ドライバー交代をして続けて54番目に山中選手が試技を開始する。
入門クラスとは言え、ベースとなる自動車を購入して、シートを交換したり、安全設備を付けたり、タイヤ、サスペンション、ブレーキなどを交換したり。良い成績を上げるためにはそれなりに費用が必要になってくることから、こうした形で共同で費用を出し合って競技に参加することができるのがジムカーナの良いところ。みんなが一斉にスタートするレースでは、一台の車を2人で使用することは到底不可能なのだから。
こちらもダブルエントリー車。現在ドライブしているのはゼッケン65番の やぎ かつこ 選手で車名は「キャッツ♡ラムズ♡インテグラ!」。
女性だからといって特別なハンディを付けることはないのがモータースポーツの世界(参加者を女性だけに限定する「レディスクラス」が開催される場合もあるが)。ところが、必ずしも女性だからといって不利だとは言えないのがこの世界でもある。さすがにフォーミュラマシンはステアリングやクラッチ、ブレーキを操作するには相当な力が必要で、競技時間も長いため、女性にはなかなか難しい面があるが、市販車をベースにしたジムカーナではそれほど操作に体力は必要でなく、競技時間も一回当たり2分程度と短いことから、女性でも上位入賞が十分に望める。
ということで、このやぎ選手。2本目のタイム1分35秒977はA-3クラス17台の参加車中、堂々の2位を獲得した。それどころか、上のクラスであるA-4クラスでもやぎ選手のタイムを破った選手は一人しかなく、結果として本日の全参加者77台中第3位という記録になった。
四輪駆動車によるA-4クラス。一昔前は四輪駆動車といえばジープタイプのゴツイ車を指していたが、アウディが世界ラリー選手権に四輪駆動のセダン「クワトロ」を出場させたことからモータースポーツにおける四輪駆動車の優位さが知られるようになり、特にラリーの世界ではほぼ四輪駆動車の独占状態である。
中でも、現在世界ラリー選手権を席巻しているのがスバル・インプレッサWRX。タバコの555カラーに塗られたブルーのインプレッサは現在のラリーの代名詞でもある。
これに果敢に挑戦しているのが三菱のランサーエボリューション。徐々に改良を重ねてエボ1、エボ2と発展し、現在は新型ランサーをベースにしたエボリューション4が販売されている。
こうしたメーカー競争を反映し、A-4クラスでもインプレッサとランサーはほぼ拮抗した争いになっている。写真は、上が伊藤貴洋選手の「オメガインプレッサイモムシRA」(インプレッサWRX)、下が小玉知司選手の「マナベスノコエクセルランサー3」(ランサーエボリューション3)。
伊藤選手は一本目に1分36秒496を出したものの、期待された二本目は痛恨のミスコースでタイム無効。それでも一本目のタイムでクラス3位をゲットしたのは立派。小玉選手は二本目の高速セクションで姿勢を乱しハーフスピン。これがたたって二本目のタイムは1分47秒476と大きく落とし、結局一本目のタイム1分37秒156が有効で、クラス5位という結果になった。
どちらも派手なタイヤスモークを上げてタイヤを滑らせながら車を右に左に曲げていたが、観客ウケのするこうした派手なパフォーマンスが必ずしも速いタイムにつながるわけではないというところが面白く、かつ奥の深いところ。
誰でも気軽に参加できるのがジムカーナの良いところ。この「誰でも」というのが、「老若男女」だけではなく、ハンディを負った人にも門戸を開いているのが嬉しい。
写真は下肢障害者のために手だけで運転できるように改造された三菱ミラージュ。それなりにトレーニングを積めば、身体障害者でもハンディなしで堂々と一般の全日本選手権に参加できる道が開かれているという競技は案外少ないのではないだろうか。
順位 | ドライバー | 車両 | ヒート1 ヒート2 |
FR | |||
1位 | 三原 順 | バウカンパニーREKトレノ2 | 1:46.784 1:42.670 |
2位 | 名田 洋 | ミルクハウスNGSトレノ | ミスコース 1:42.875 |
3位 | 森 淳 | これからよろしくロードスター | ミスコース 1:45.385 |
NG-2 | |||
1位 | 樽谷 俊史 | ミラージュRS | 1:51.305 1:48.085 |
2位 | 川口 朋久 | 5SPEEDインテグラ | 1:56.969 1:53.196 |
3位 | 竹村 博之 | SKRスプリンターGT | 2:00.525 1:55.592 |
A-1 | |||
1位 | 奥山淳一郎 | 鉄もぐらGA2 | 1:40.209 1:38.100 |
2位 | 大前 忠彦 | M-SPORTS橋本組シティ | ミスコース 1:39.446 |
3位 | 高瀬 哲也 | アダチモータース・シティ | 1:46.488 1:39.787 |
A-2 | |||
1位 | 谷野 哲司 | FIXスケベーヤローミラージュ | 1:40.119 1:37.249 |
2位 | 野坂 拓司 | スピナーズ北摂CR-X | 1:44.234 1:37.466 |
3位 | 谷垣 啓介 | TSナビスーパーミラージュ | 1:40.543 1:38.284 |
A-3 | |||
1位 | 長谷部圭造 | マルファー金ちゃんのインテグラ | 1:38.086 1:35.832 |
2位 | やぎかつこ | キャッツ・ラムズ・インテグラ | 1:38.730 1:35.977 |
3位 | 細田 清 | ゴリテックインテグラタイプR | 1:43.589 1:37.351 |
A-4 | |||
1位 | 木下 則生 | TFEオレンジランサー | 1:43.337 1:35.512 |
2位 | 篠原 正行 | CPテクニカカモトエボ4 | 1:36.335 1:36.464 |
3位 | 伊藤 貴洋 | オメガインプレッサイモムシRA | 1:36.496 ミスコース |
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南紀白浜空港が開港したのは南紀白浜が「新婚旅行のメッカ」と言われていた時代にあたる1968年のことで、最盛期には東京、大阪、名古屋との間で定期航路が開かれていましたが、滑走路の延長が1200mと短いため離発着できる機種はプロペラ機のYS-11のみに限られ(当時)、国内路線に導入が進んでいたジェット機に対応することができませんでした。
ところが、この空港は白浜温泉を見下ろす小高い丘の上に位置しており、滑走路の両端はほぼ崖地のような地形であったことから、滑走路を南北に延長することは事実上不可能であったのです。このため、南紀白浜空港のジェット化対応は非常に難航し、一時は町外への移転構想も取り沙汰されるようになりましたが、最終的に旧空港の隣接地に新たな空港を建設することが決定され、1996年3月にようやく新空港の開港にこぎつけました。上記でも述べたように、当初の滑走路の延長は1800mでしたが、2000年には2000mへの延長工事が完了し、現在ではボーイング737-800型が羽田空港との間で一日3便運行されています。
南紀白浜空港の概要 | 和歌山県
新空港の開港により廃止となった旧白浜空港の跡地については、その広大な滑走路を活用して地域振興に役立てられないかと各種の検討がなされました。当時、地元には大手メディアの協力を得て大規模なモータースポーツ施設を建設するという計画が持ち込まれており、この計画が実現すれば、ここが我が国のモータースポーツのメッカになる可能性もあったのです。
残念ながら、この計画は騒音への懸念や事業主体の資金計画などの問題が発生して実現には至りませんでしたが、今回の記事で紹介したジムカーナ競技はこうした計画が水面下で動いている時期でもあり、関係者の中には計画実現への一つの試金石となるのではないかと考えていた人々がいたことは間違いありません。
この後、こうした計画に代わって浮上してきたのが、和歌山県による航空工学系大学の開設計画でした。これは2000年2月に西口勇和歌山県知事(当時)が発表したもので、当時の計画では、工学部航空宇宙システム工学科(学年定員230人)のみの単科大学として2003年度に開学を予定していました。
ところが、この事業を推進していた西口知事が体調不安を理由に2000年7月をもって退任し、その後任として木村良樹知事が9月に就任すると、この大学に関する風向きが一気に変わりました。木村知事は、就任直後の9月定例県議会の冒頭で和歌山県の財政事情が非常に厳しいことを理由に、和歌山工科大学整備事業の執行を全面凍結することを発表し、後には事業全体を中止するに至ったのです。
近年、ドローンや「空飛ぶクルマ」が日々の話題にのぼるようになり、また串本町には民間のロケット発射場が開設されるなど、航空や宇宙に関する話題が盛り沢山になってきたことを考えると、「あのとき和歌山工科大学が開設されていたら」とつい考えてしまいますが、同時に日本全国の大学が少子化の影響による学生数減少に四苦八苦している姿を鑑みると、これもまたやむを得ない決断であったかと思わざるを得ません。
ジムカーナとは随分遠い話題になってしまいましたが、南紀白浜空港に関する諸々を書き連ねてみました。