生石高原の麓から

和歌山の歴史・文化・伝承などを気ままに書き連ねています

西防波堤沖埋立地(和歌山市)

 「和歌山あれやこれや」のカテゴリーでは、県内各地に伝わる歴史や伝承などを気ままに紹介していきます。

 

 今回は「歴史」と呼ぶには少し新しすぎるかもしれませんが、1980年代に始まった和歌山市沖の巨大埋立地西防波堤沖埋立地」に関わる話を紹介します。

(西防波堤沖埋立地

 

 令和5年12月19日、関西電力和歌山市の沖合に造成された埋立地に計画していた液化天然ガスLNG火力発電所(定格出力370万キロワット)の建設を中止することを発表しました。

www.wakayamashimpo.co.jp

 上記の新聞報道だけを読むと、この埋立地関西電力LNG火力発電所のために埋め立てたように思えますが、実はもともとこの土地は対岸に立地する住友金属工業和歌山製鉄所(現在は日本製鉄関西製鉄所和歌山地区)の公害被害軽減のための移転用地として造成されたものなのです。
 その土地が関西電力LNG火力発電所用地となるためには様々な紆余曲折がありました。これについて、当時和歌山県自然環境課副課長であった大橋友紀氏は「西防波堤沖埋立地及び周辺海域における海域環境の保全・創造に関する検討について((社)瀬戸内海環境保全協会「瀬戸内海 No.12」1997.12)」で次のように説明しています。

1)西防波堤沖埋立地とは
 和歌山市紀の川河口部右岸側海面を埋立て、177haの鉄鋼業用地及び緑地を3つの工区に分けて造成しようとするものである。埋立計画の目的は、①製鉄所公害発生源の移転埋立地・施設移転後跡地の緑化港湾施設や施設レイアウトの改善和歌山県北部地域の廃棄物の最終処分場確保である。事業主体は鉄鋼業者であり、昭和55年に着工した。
 2つの工区が竣功し、第Ⅲ工区が埋立工事中の平成6年に、事業主体から和歌山県に対し、埋立地利用計画見直しの申し入れがなされた。鉄鋼業をめぐる状況の大幅な変化及び環境対策技術の進歩による現在地での環境改善目標達成の見通しがついたとの理由から、埋立地への一部設備の移転を中止し、新たな土地利用について公共、公益性の観点から県において検討してほしい、また、第Ⅲ工区については竣功後公共の用に供されたいとの趣旨であった。
 これを受けて和歌山県は、新たな土地利用について環境保全及び公共、公益的利用を方針として検討することとし、学識者による西防波堤沖埋立地利用計画検討委員会を設置して、土地利用計画について諮問した。平成9年4月に答申がなされ、①製鉄所高転炉滓処理施設関連施設LNG火力発電所③廃棄物広域処理機能④多目的公共ふ頭⑤環境・保健中核研究施設⑥緑地公園が利用計画として位置付けられた。
公益社団法人瀬戸内海保全協会 | 総合誌 瀬戸内海

 この製鉄所用地から発電所用地への用途変更は決して簡単に認められたものではありませんでした。
 関西電力のWebサイトではこの間の経緯を次のように解説しています。

平 成

 3. 5.27

 住友金属工業は西防波堤沖埋立地利用計画の見直しについて希望表明 併せて、和歌山市はLNG火力発電所誘致、物流基地設置構想を発表 
 6. 3.30  住友金属工業は沖合移転計画の中止及び埋立地の利用計画策定を和歌山県に委ねることを発表
    5.23  和歌山県は「西防波堤沖埋立地利用計画検討委員会」を設置
   11.28

西防波堤沖埋立地利用計画検討委員会は和歌山県知事に中間報告

   12. 6 和歌山市議会で環境調査実施推進決議
   12. 7 和歌山市関西電力に対し、環境調査の実施について文書要請
   12.16 関西電力は環境調査申入れ
 7. 3.13

和歌山市議会は「西防波堤沖埋立地利用検討特別委員会」を設置

    4. 1 和歌山市は「環境影響調査検討委員会」を設置
    4.27 環境調査開始(~H8.7.30)
   12.25 西防波堤沖埋立地利用計画検討委員会は、和歌山県知事に「第3工区利用計画の最終見解」を報告
 8. 4.18 和歌山市は「安全性調査検討委員会」を設置
   12.24 関西電力通産省及び県、市、大阪府、隣接5市町に環境影響調査書を提出。併せて和歌山市に建設申入れ
 9. 1. 6 関西電力は環境影響調査書を縦覧(~ 2.5;一般説明会 1.22)
    2.20 環境影響調査検討委員会および安全性調査検討委員会は、和歌山市長に審査報告書を提出
    4.14 西防波堤沖埋立地利用計画検討委員会は和歌山県知事にLNG発電所利用を含む利用計画を答申
    6.12 和歌山市議会でLNG火力発電所建設促進決議
    7. 1 和歌山市長は和歌山県からの意見照会に対し、電調審上程に同意する旨回答
    7. 3 和歌山県議会で和歌山発電所、御坊第二発電所建設促進決議
    7.16 和歌山県知事は経企庁からの意見照会に対し、電調審上程に同意する旨回答
    7.30 第135回電源開発調整審議会において計画承認
    8.25 関西電力通産省及び県、市、大阪府、隣接5市町に修正環境影響調査書を提出し、縦覧。(9.1~ 9.30)
   11.28 港湾審議会第164回計画部会で和歌山下津港港湾計画が承認
10.11.11 住友金属工業関西電力公有水面埋立法に基づく権利移転許可申請書を和歌山県に提出
11. 3.12 和歌山県公有水面埋立法に基づく権利移転許可
11. 3.17 関西電力国土利用計画法に基づく土地売買等届出
12. 3.30 関西電力和歌山県と「建設協定」、「環境保全協定」を締結、和歌山市と「建設等に関する基本協定」、「環境保全協定」、「安全確保に関する協定」、「工事中の環境保全・安全に関する協定」を締結 

和歌山発電所に係る主な経緯|2000|プレスリリース|企業情報|関西電力

 

 上記の表では、平成3年(1991)5月27日に「住友金属工業は西防波堤沖埋立地利用計画の見直しについて希望表明 併せて、和歌山市はLNG火力発電所誘致、物流基地設置構想を発表」と、淡々と書いていますが、このとき和歌山市では大きな議論が巻き起こりました。
 そもそも製鉄所による公害被害を軽減するために巨大な埋立地を作ったのに、経済環境の変化や公害対策技術の進展を理由に約束を反故にして他の企業に転売しようというのですから、簡単に認められるものではありません。

 この発表直後に開催された和歌山市の平成3年6月議会では多くの市議会議員がこの問題について質問を行いました。その一人である浦哲志議員は次のような質問を行いました。

 先輩・同僚議員もよく御存じのように、このLNG火力発電所誘致計画は突然、本当に突然という形でマスコミ紙上をにぎわし、地元住民、また我々議会としても全く寝耳に水、大企業と市長との、市民を全く無視した密室の中の、また独善的なやり方であるというような激しい怒りの声が上がっているわけで、ここに大きな問題があると思います。時あたかも政治家に対する政治倫理、政治信念、また企業に対しては、企業倫理が国の内外から厳しく問われている今日、地方行政に携わる者として、市長及び我々議員も当然責任として、義務として何が第一義であるかということを考えていかなければならないと思います。
(中略)
 まず、住金埋立問題について昨日も質問の中にありましたが、過去の経緯を少しさかのぼってみたいと思います。基本的には公害防止と環境改善を最大の目的として、昭和53年に埋立申請、55年8月から8年計画で約176万平米、約53万坪を埋め立て、いわゆる公害発生源としてのコークス炉、石炭ヤードなどを移転する計画で、この沖合移転が対策の切り札として浮上したわけです。
 当時の住金(すみきん)側のパンフレットには大々的にこの埋立計画について特集を組み、美辞麗句を並べながら、地域社会とともに歩む企業として共存共栄、付近住民の方にも理解と協力を求めました。その当時の住金から出されましたパンフレット、西防沖埋立計画特集というPR紙の中に、「未来への道を探る」として、西防沖埋立計画住友金属が単に企業の立場からだけではなく、地域社会全体として真によりよい未来へ向けての道を探って、英知を結集して作成した計画であるとし、要約すると、住金は公害防止なくして企業の発展なしを基本方針に公害防止に努力してきた。しかし十分な環境改善を達成するに至らず、現在ではこれ以上の公害防止の効果は望めない。特に最も問題の多い粉じん、悪臭公害を解消するには、発生源と住居地との距離を離す以外に効果的な対策はない。ほかにもありますが、公害防止設備の新設強化を図るなど、このように住金としても公害の存在を認め、いわゆる臭いものにふたをすると同時に、もとから断とうというんですか、公害の発生源を遠くに離そうという理想的な表現を使いながら発表して、地元のコンセンサスを求めたわけです。
 そのために、近隣、特に松江地区の住民も行政に積極的に陳情するなどして、この計画に協力してまいりました。住友金属に対して信頼と将来における地区住民の生活環境の改善に首を長くして期待し続けてきたわけです。
 その後、昭和62年9月20日付、毎日新聞紙上で、円高不況のため資金不足による沖合移転中止が報道された際、驚いた地元自治会に対して、住金側からは、そのような報道は全く事実無根であり、計画どおり進めるとのコメントを出し、その後もこの計画について地元松江地区の住民は住金とたびたび会議を開き、その都度確認をとり続けてきております。
 例えば平成元年11月15日の夜、住金の会議室で行われた公害対策役員との会議の中でも、この計画について言及したところ、住金側からは埋め立て完成後の施設移転は当初計画どおりであるとの回答を出しております。
 それが突然のこのたびの計画変更、昭和61年の2工区、3工区の工期延期ともあわせまして、住民との約束をほごにした、いわゆる信義則に反する行為に対して、地元住民は住金に対し大きな失望と不信感を抱いて、それが怒りになってあらわれています。
(以下略)
会議録表示

 この質問に対する旅田卓宗市長(当時)の答弁は次のようなものでした。

 住金埋立地の用途変更の問題について、住金から相談があったときに、その住金の態度に対してどう思ったか、抗議をしたのかというような御指摘でございますが、この問題については昨日もお答え申し上げましたとおり、昨年7月に住友金属の方から、既に環境改善目標値を達成しているので埋立地を他の用途に使わせてほしいという、そうした趣旨の申し入れがございまして、種々検討いたしました。種々検討いたしました結果ですね、西防の埋立地に工場を沖出しするという本来の目的がですね、環境を改善していくということが本来の目的であったはずであるから、既に環境改善目標値は達成されている以上は、沖出し中止もやむを得ないと、そういうふうに判断したところでございます。
 そこで、西防埋立地の有効活用方法を種々検討いたしました結果、LNG液化天然ガスの火力発電所の誘致と、そして物流基地の誘致住友金属に要請したところでございます。
(以下略)

 また、同時期に開催された和歌山県議会では、尾崎吉弘県議(当時)住友金属から関西電力への土地譲渡手続きについて質問したのに対し、磯村幹夫土木部長が次のように回答しています。

 住友金属西防埋立地について、まず当初の免許及び期間伸長に当たっての審査並びに今回の変更に伴う手続についてでございます。
 西防波堤沖埋立計画は、昭和五十三年八月、住友金属から申請が出され、免許庁として公有水面埋立法に従って、国土利用上、適正かつ合理的であること、環境保全及び災害防止について十分配慮していること、埋立地の用途が土地利用または環境保全に関する国または地方公共団体の法律に基づく計画に違背しないこと等についてチェックするとともに、具体的に埋立必要理由、設計概要、資金計画等に関し厳正な審査を行い、国の認可を得て昭和五十五年六月に免許したものであります。また昭和六十一年七月、住友金属から、粗鋼減産及び廃棄物再利用率の向上に伴う自社廃棄物の減少、公共廃棄物の減少により埋立工程がおくれ、竣功期間の伸長申請がございましたが、免許庁として埋立材の搬入状況及び今後の見通し等、申請内容について厳正に審査を行い、やむを得ないものと判断して、国の認可を得て同年八月に許可したものでございます。
 なお、今般の件について、事業者である住友金属において見直し検討の結果、埋立変更申請が提出された場合、その内容によって公有水面埋立法に基づく手続は異なるものでありますが、いずれの場合であっても変更内容について厳正な審査が必要であり、その際、特に今後の鉄鋼生産計画等については慎重な審査が必要と考えております。
 次に、処分価格に対する県の考え方でございます。
 埋立地を処分しようとする場合は、公有水面埋立法に基づく手続を必要とし、同法において、やむこと得ざる事由があること、権利を移転しまたは設定しようとする者がその移転または設定により不当に受益せざること等定められており、この点を重点に審査を行うこととなります。
 議員ご指摘の譲渡価格の件に関しては、特に造成原価について十分な分析を行う等、慎重な判断を必要とするものであり、必要に応じて認可庁等とも相談しながら、慎重の上にも慎重な審査を行うべきものと考えております。
平成3年6月 和歌山県議会定例会会議録 第2号(尾崎吉弘議員の質疑及び一般質問) | 和歌山県議会

 その後、平成6年(1994)3月30日には住友金属沖合移転計画を中止することと、今後の埋立地利用計画については和歌山県に委ねることを正式に発表し、和歌山県ではこれを受けて「西防波堤沖埋立地利用計画検討委員会」を発足させました。
 同委員会は、同年11月に「中間報告」を公表しましたが、この報告には下記和歌山県議会平成7年12月和歌山県議会定例会における東山昭久議員の質問)のとおり「テクノスーパーライナーの母港としての多目的埠頭」という計画が盛り込まれていました。

 西防の埋め立ては、住友金属和歌山製鉄所公害発生源の沖出し移転埋立地施設移転跡地の緑化紀北地域の廃棄物の最終処分場確保などを目的に八○年八月に着工され、一から三工区で成る百七十六・五ヘクタールの面積を持つものであり、一から二工区が九○年に完成し、高炉滓、転炉滓処理場の移転が終わり、三工区は九六年の完成を目標に工事が進められてきました。
 住友金属は、九一年五月、鉄鋼業をめぐる経済情勢の変化に伴い、沖出し移転計画の見直しをせざるを得ないこと、また六号コークス炉乾式消火設備、第一製鋼工場建屋集じん装置など総額二百億円以上の整備対策、環境改善強化対策の進歩によって現在地で環境改善目標値が達成する見通しがついたとして、埋立利用計画の見直しを発表し、九四年三月三十日に和歌山県に対して申し入れがなされたのであります。九四年五月に西防波堤沖埋立地利用計画検討委員会が設置され、昨年十一月二十八日に中間報告が出されました。
 中間報告によると、配置案として一から二工区には銑鉄所高転炉滓処理関連設備LNG火力発電所及び廃棄物広域機能を配置し、三工区にはテクノスーパーライナーの母港としての対応可能な多目的埠頭緑地公園及び環境保健センター等を配置することが適当であるとなっています。三工区については、十一月二十七日の第六回検討委員会で最終報告がまとめられ、テクノスーパーライナーの母港としての多目的埠頭緑地公園環境保健センターの利用計画案が知事に報告されるとなっており、二工区のLNG問題は先送りされています。
平成7年12月 和歌山県議会定例会会議録 第2号(東山昭久議員の質疑及び一般質問) | 和歌山県議会

 今となっては耳馴染みのない言葉となってしまった「テクノスーパーライナー」ですが、これは平成時代初期に盛んに喧伝された「次世代超高速船」の愛称です。

和歌山県広報紙「県民の友」平成7年(1995)7月号
広報紙 | 和歌山県

 テクノスーパーライナーは、空気の圧力や水中翼を利用して船体を海面から浮上させ、水の抵抗を少なくすることで50ノット(時速92.5km)という高速を実現しようとする意欲的な計画でした。石川島播磨重工業川崎重工業住友重機械工業日本鋼管日立造船三井造船三菱重工業の7社が参加して設立されたテクノスーパーライナー技術研究組合が開発の母体となり、基本モデル艇 1 隻、実験船 2 隻、実用船 1 隻をそれぞれ建造しましたが、結果的に「飛行機と同程度の運用費がかかるが、速度は飛行機より遅い」ということから、今日まで本格的な実用化には至っていません。
テクノスーパーライナー - Wikipedia


 こうした経緯もあり、平成9年(1997)4月14日に公表された同委員会の最終報告(答申)ではテクノスーパーライナーの文言を特出しすることなく、単に「多目的公共埠頭」と記載されるにとどまりました。
 
 以上のような議論の末に策定された「西防波堤沖埋立地利用計画」ですが、その内容は、当時の海域環境保全に関する最新の知見に基づいたかなり意欲的なものであったと言えます。特に「海域環境を犠牲にした埋立が既に行われている点を踏まえ、(略)埋立によって影響を受けた部分を修復・回復する、埋立によって失われた海域環境を実質的に代償する」という、いわゆる「ミティゲーション(mitigation 環境への影響の緩和・補償)※1」という概念を比較的早期に導入した点は高く評価されるべきでしょう。
※1 ミティゲーションとは? 意味や使い方 - コトバンク

 

 その具体的な内容については、上述した大橋友紀氏の報告において、「西防波堤沖埋立地利用計画検討委員会」による答申及びこの答申を受けて設立された「西防波堤沖埋立地に係る海域環境の保全創造検討委員会」による報告書の内容がまとめられているので、これを以下に引用します。

2)検討の目的等
 西防波堤沖埋立地利用計画検討委員会の答申において、利用計画実現のための課題のひとつとして「海域環境の保全と創造」が掲げられた。この課題の解決に努めるため、瀬戸内海環境保全特別措置法の趣旨に則り、海域環境の保全と創造について、実現可能な具体的方法等の検討を行うことを目的とした。
 検討の方法としては、6名の専門家による「西防波堤沖埋立地に係る海域環境の保全創造検討委員会」が設置され、同委員会での検討によって報告書としてとりまとめられた。この報告書は平成9年6月10日に公表されたところである。今回の報文は、同委員会の報告書を要約したものである。

 

2.海域環境の保全・創造を行うに当たっての視点

1)西防波堤沖埋立地周辺の環境特性

① 瀬戸内海の出入口に位置し、海水、栄養塩、魚類等のゲートウエイである。

② 様々な側面で、瀬戸内海へ影響を及ぼし、また、瀬戸内海からの影響を受ける要の場所である。

③ 紀の川の河口に位置し、物理・化学過程、生態系において多様で生産性の高い海域(エスチャリー・・・・・・汽水域)である。

④ 豊かな自然環境と沿岸域の開発による利便性が比較的良好な状態で共存する地域である。


2)瀬戸内海環境保全特別措置法の視点
 厳に埋立を抑制すべき海域において、海域環境を犠牲にした埋立が既に行われている点を踏まえ、影響の度合いが軽微であることといった配慮に加えて、埋立によって影響を受けた部分を修復・回復する、埋立によって失われた海域環境を実質的に代償するという観点で、海域環境の保全・創造に努める。

 

3)環境基本計画(平成6年12月閣議決定)の視点

①「自然と人間との共生の確保」における沿岸海域に掲げられた施策

ア 生物の生息・生育地の確保や景観保全への配慮を進めるとともに、緑地や親水空間等の整備を進める。

イ 干潟の保全環境保全に十分に配慮するとともに干潟・海浜等を整備する。

②「公平な役割分担の下でのすべての主体の参加の実現」に掲げられた環境教育・環境学習の推進

③「環境保全に係る共通的基礎的施策の推進」に掲げられた調査研究及び監視・観測等の充実

 

3.西防波堤沖埋立地及び周辺海域における海域環境の保全・創造

1)基本理念と4つの基本方針
 当海域における環境の保全・創造を実施するに当たり、循環、自然との共生、参加、広域での取り組みを基調に、基本理念を次のとおりとした。
海とくらし、海をまもり、豊かな海を次世代に引き継ぐ
 この基本理念の基に、次の4つの基本方針に沿って施策を展開するものとした。

① 多様な生物の生息空間の保全・創造
 近郊に残された海辺の豊かな自然環境、特に生物の生息空間及び自然の高い浄化能を有する海浜、干潟、藻場等を積極的に保全する。埋立によって失われた環境を修復するため、埋立地内、護岸構造物周辺さらには周辺海域において、緑地、藻場、人工ラグーン、ビオトープ、磯場等多様な生物の生息が可能な空間の確保に努める

② 水質の保全(水質の改善)
 生物の生息場として、また、親水空間としての利用に望ましい水質環境の保全に努める。すでに水質の悪化が見られる海域においては、流入負荷の削減、底質の改善等によって水質環境の改善に努める。

③ 親水性の確保(親水空間の確保)
 近郊に残された豊かな海辺の自然とのふれあいの場を創出する。海岸域において、水辺の散策道や公園・緑地等を設置し、県民が身近に親しめる水際線の確保に努める。

④ 環境の保全・創造に関する調査・研究、教育・学習
 埋立地周辺海域の特性、埋立地及び周辺海域に創出する多様な生物の生息空間等を生かした調査・研究やモニタリングを総合的、継続的に実施し、環境の保全・創造に資する調査・研究の実施に努め、瀬戸内海海域環境保全の先導的な役割を果たす。
 また、周辺に残された豊かな自然とのふれあい、埋立地において修復する近自然環境等を通じ、自然の仕組み、人間の活動が環境に及ぼす影響、人間と環境との関わりについて学ぶことができる新たな場、モデル的な仕組みの創出に努める。

 

2)海域環境の保全・創造施策
 西防波堤沖埋立地周辺の環境特性を踏まえ、基本方針に照らしてとりまとめられた具体的な海域環境の保全・創造施策を整理すると次のとおりである。

① 多様な生物の生息空間の保全・創造

ア 自然海浜保全地区の指定等
(ア)磯ノ浦の自然海浜保全地区指定
(イ)加太及び雑賀崎周辺の自然海岸の保全

イ 多様な空間の確保
(ア)藻礁ブロックによる藻場の造成
(イ)事業所内におけるビオトープの造成
(ウ)人工ラグーンの造成(人工磯、人工干潟、人工海岸)
(エ)緑地の造成
(オ)水産関連事業による魚介類の生息場の造成(人工漁礁の設置、築磯、増殖場の造成)

ウ 浅場の確保(エコトーンの確保)
(ア)消波ブロック等による浅場の造成
(イ)人工ラグーンの造成(再掲)
(ウ)将来における浅場の造成の検討

エ 生物の生息に適した水質・底質環境の確保
(ア)有機汚泥の浚渫除去の検討

 

② 水質の保全(水質の改善)

ア 流入負荷の削減
(ア)下水道事業の推進
(イ)事業所排水処理対策の強化

イ 有機懸濁物の分解除去
(ア)人工ラグーンの造成(水質浄化:再掲)

ウ 栄養塩溶出量の削減
(ア)有機汚泥の浚渫・除去の検討(再掲)

エ 海水交換の促進
(ア)発電所取放水による港内海水の交換促進

 

③ 親水性の確保(親水空間の確保)

ア 開かれた海岸線づくり
(ア)散策道路の設置
(イ)海釣り公園の整備(既整備)

イ 海岸域における公園・緑地の整備
(ア)港湾緑地の整備促進
(イ)事業所内の緑化の推進
(ウ)将来における緑地の造成の検討

ウ 親水施設の整備
(ア)磯ノ浦海水浴場の整備
(イ)魅力あるウォーターフロント空間形成の検討

 

④ 環境の保全・創造に関する調査・研究、教育・学習

ア 環境への取り組みに関する拠点設置
(ア)環境・保健中核研究施設の設置

イ 環境保全・創造に関する調査・研究
(ア)調査研究拠点の設置(仮称:紀淡海峡研究機構
(イ)環境保全・創造に関する調査・研究の実施
  a 紀淡海峡及び紀の川河口の物理・化学・生物過程(生態系)に関する調査研究、モニタリング
  b 藻場、人工ラグーン、ビオトープに関する調査・研究、モニタリング
(ウ)広域的、長期的モニタリングの実施
(エ)環境保全創造に関する知見、情報の集積、発信

ウ 環境教育・学習の場、仕組みづくり
(ア)環境教育・学習拠点の設置(仮称:環境学習センター
  a 海域環境に関する展示、学習施設
(イ)環境教育・学習の仕組みづくり
  a 自然の海浜、干潟、人工ラグーン、ビオトープをフィールドにした自然教育・学習の実施
  b 既存の体験・学習施設との連携

 

4.施策の推進体制
 西防波堤沖埋立地及び周辺海域における海域環境の保全・創造施策の実施に当たっては、和歌山県和歌山市、事業者等によって構成する(仮称)海域環境保全・創造推進協議会を設置し、事業の推進を図るものとする。
 藻場の造成人工ラグーンビオトープの造成等の直接的事業については、事業主体、事業の実施時期等を(仮称)海域環境保全・創造推進協議会において明らかにし、着実に事業を進めるものとする。
 また、環境保全創造に関する調査・研究については、平成11年を目途に(仮称)紀淡海峡研究機構を設立し、広域的、長期的な調査・研究、モニタリングに着手するものとする。これらの調査研究の成果が、藻場の造成人工ラグーンビオトープの造成等にフィードバックできるよう早期に実施するものである。さらに、環境教育・学習の拠点として、平成16年度を目途に(仮称)環境学習センターを開設するものとする。
(以下略)
「西防波堤沖埋立地及び周辺海域における海域環境の保全・創造に関する検討について((社)瀬戸内海環境保全協会「瀬戸内海 No.12」1997.12)」
公益社団法人瀬戸内海保全協会 | 総合誌 瀬戸内海

 

 今回のLNG火力発電所建設計画が中止となってしまったことにより、これらの計画の取り扱いがどのようになるのかはまだ公表されていませんが、計画に盛り込まれていた「海域環境の保全・創造に関する調査・研究」や「環境教育・学習の場、仕組みづくり」といった取り組みも同時に中止となってしまうのだとすれば大変残念なことだと思います。
 今後は、関西電力によって企業誘致が進められることになるようですが、これらの活動とあわせて「調査・研究教育・学習」などの機能にも一定の配慮を忘れずにいてもらいたいと願わずにはいられません。