生石高原の麓から

和歌山の歴史・文化・伝承などを気ままに書き連ねています

酒が足らんさけ ~新官市~

 酒にまつわる話は多い。しかも、その多くは酒が故の失敗談であったり、そのしくじりが喧嘩口論に発展したというものだが、いまも新宮で語られるこの話は、いわば「酒飲みのへ埋屈」であり、そのために身近な笑い話として残ったものだろう。

 

 その主人公というのは、とにかく酒好き。仕事はよくするのだが、ヒマさえあれば酒を飲むという男。身内も口を酢っぱくして意見するのだが、一向にききめがない。


 そのうち、この男は酔って一本橋から足を踏み外し、川へ落ちてしまった。ところがそのいい分がおもしろい。
 「いつもは一升飲んで渡ると、一本橋は三本に見える。そこでまん中を通る。だが今日は七合しか飲まなかったせいか、二本にしか見えなかった。どっちへ行こうかと迷っているうちに落ちてしまった」と。

 (出典:「紀州 民話の旅」 和歌山県 昭和57年)

新宮市 尾崎酒造株式会社(下記解説参照)

 

放送日:昭和62(1987)年8月29日
題名:酒が足らんさけ
ナレーション:市原悦子
出典:紀州の民話(日本の民話56)、徳山静子、未来社、1975年4月25日

 

  • 同サイトに掲載されているアニメーション版のあらすじは次のとおり

 昔々のことじゃ。ある所にごんざという働き者の炭焼きがいた。

 ごんざは人一倍の仕事をするが、毎晩、近くの町まで行って1升酒を飲まないと気がすまなかった。帰り道は川を渡って帰るのだが、酔いのせいでその橋は3本に見えた。

 毎晩の暴飲を心配したごんざの女房が、お酒の量を半分に減らすよう戒めた。次の日、ごんざは仕方なく半分の酒しか飲まずに、帰路についた。

 しかし、いつもは酔って3本に見えていた橋が、今日は2本にしか見えない。普段なら3本に見えた橋は真ん中を渡れば大丈夫だったが、今日は2本しかないのでどちらを渡ればよいか分からなかった。

 ごんざはうっかり橋を踏み外して、川に落ちてしまい、生死の境をさまよった。これにより、やっぱりごんざは毎晩一升酒を飲むことにし、それで随分と長生きした。
                      (紅子 2011-7-6 0:41)

 

  • 現在、新宮市には「尾崎酒造株式会社」という酒造会社がある。「太平洋」のブランドで知られる同社は本州最南端にある造り酒屋としても知られており、紀伊半島のうち、和歌山県田辺市以南から三重県の伊勢松阪市周辺までの間でただ一軒の地酒メーカーである。


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本ページの内容は、昭和57年に和歌山県が発行した「紀州 民話の旅」を復刻し、必要に応じ注釈(●印)を加えたものです。注釈のない場合でも、道路改修や施設整備等により記載内容が現状と大きく異なっている場合がありますので、ご注意ください。