生石高原の麓から

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おおな魚~串本町和深~

 おおな魚。春、菜の花の咲く頃から釣れはじめ、5月末までがシーズン。和名イシナギ。本州南岸では和深沖の「おおな地」だけで釣れるという。

 

 ある冷たい冬の日。空腹と寒さで疲れきって和深の里へたどりついた貧しい旅僧が、ある漁家で一夜の宿を乞うた。そのあたたかいもてなしに感謝した僧は「この沖一里(4キロ)、深さ百ひろ(約150メートル)のあたりに“おおな”という魚がいる」と言い残して旅立った。おおな魚は、そのころから釣れはじめたのだ・・・と。

 

 和深東平見にある大師堂は、さきの旅僧が弘法大師だったと知った村人が、その功徳に感じて建立したといい、旧歴1月21日にモチ投げがある。

 

(メモ:国鉄紀勢線和深駅下車。おおな地の釣り場は船波漁港から約4キロ南。大師堂は駅から歩いて約20分の高台にある。イシナギ釣りの仕掛けは、40号の道糸で、エサはイカ。ただしハリは特製という。)

(出典:「紀州 民話の旅」 和歌山県 昭和57年)

東平見地区の大師堂 奥に「おおな魚」の写真入り看板が見える

 

  • この物語については、那須晴次著「伝説の熊野(郷土研究会 1930)」に「おほな(おおな)」という題名で収載されているので、下記に引用する。

おおな魚和深
 私の村和深に「大菜」と言う魚がとれます。それはそれは大きなものです。丁度菜のおいしい芽ばえが出て家々のお膳には菜の「オカズ」が上る頃から菜が成長して花が咲き実のなる頃まで此の魚が捕れるのです。そして貧しい家にも金持ちの家にも出来た菜と共にたかれて(筆者注:「煮て」の意)その芳味をほめられながら食べられる魚なのです。此魚は珍らしいことには外の村にはとれないで只私の村にのみ捕れるのです。そして又そのとれる期間も短いので非常に重宝されます。これには面白い伝説があります。
 それは始めから私の村には捕れなかったのです。所が今から大分前のこと私の村の某漁家へ一人のみすぼらしい行脚僧が非常に疲れきった顔つきでやって来て「何か食べるものはありませんか。あれば何でもかまいませんから少しやってください」と言ったのでした。その時は寒い冬でした。彼僧は空腹と寒苦とでうちふるえていました。
 この言葉をきいた某家ではそのみすぼらしい姿をいたわり暖かい御飯を与え、又熱い茶まで与えた。旅僧は勿体ないと御礼をくりかえし乍らそれを戴いた。食べてしまってから行脚僧は猶も礼をかさねて言うには「この十里沖百尋の所におおなという魚があるから漁に行きなさい」と告げて何所へか去ってしまった。
 この家の主人は喜んで隣家の人々にも此話をつげて早速漁に出たそうです。行脚僧の言った通り果して今までに見たこともない珍らしい魚が沢山とれたのでした。そしてそれはあまり大きいので彼は嬉しい中にも驚きと不思議とにみたされたのでした。
 その明くる日はもう此の話が村中にひろがった。そして誰言うとなく「それは御大師さんぢゃ。御大師さんが情を恵まれたのだ。」と言い出した。それから毎年菜の成長する頃には漁舟が沢山出るようになりました。
 おおなの捕れるのは毎年春ですがそこをおおな地といってよく釣れる場所がきまっています。その形は鯉に似て目方の三十貫(筆者注:約112.5キログラム)以上もあるのが捕れることがある。又おおな魚は方言ちちこという頭の大きな河にすむ魚にも似ている。
 旧暦七月二十一日には村人が集まって餅投げをする。餅を拾ったものはそれを戴くと功德があるという これも弘法大師を信仰するからです。
※筆者注:読みやすさを考慮して、適宜漢字、送りがな、かなづかい等を現代のものにあらためた。

 

  • 江戸時代後期に編纂された地誌「紀伊風土記」の「和深」の項にも「産物」として「おふな(おおな)」が挙げられている。

産物おおな魚
此浦の沖百尋の底に大石あり
大灘島(オオナジマ)大灘(オオナ)という
此邊にて春の頃釣る魚あり
形色ともに鰵魚(アラ)という魚によく似て
鱗の大さ銭ばかり
全体の大さ五、六尺(筆者注:約1.5~1.8メートル)以上なり
至りて大なるは量目十貫目(筆者注:約37.5キログラム)より
二十四、五貫目(筆者注:約90~94キログラム)にも至る
此の魚 他にある事を聞かず
大灘地にて釣るを以て土人おおな魚という
※筆者注:読みやすさを考慮して、適宜漢字、かなづかい等を現代のものにあらためた。

 

  • 魚名の「おおな(大菜)」は、スズキ目スズキ科イシナギ属に属するオオクチイシナギの串本地方での呼び名。英語名はシーバス(Seabass)。日本周辺では通常深さ400~500メートルの岩礁域に生息するが、5~6月の産卵期には水深150メートル程度のところに上がってくるため、この時期に大物釣りの対象魚とされる。肉は美味で、刺身・フライ・煮付けなどで食用されるが、肝臓に含まれる大量のビタミンAが食中毒(急性のビタミンA過剰症)を引き起こす可能性があるため肝臓は食用に適さない。

    zukan.com

  • 地元の「和深釣りクラブ」では「おおな」を「大師魚」と呼んで、まちおこしにつなげている。「おおな」が手に入った時には地元のイベントで試食会を行っており、地元紙「紀伊民報」の平成22年(2010)11月3日(水)配信のニュースによれば、大阪府の釣りチームが釣った体長187センチ、重さ110キロのおおなを鍋料理にして約1300食を地域住民らにふるまったという。
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本ページの内容は、昭和57年に和歌山県が発行した「紀州 民話の旅」を復刻し、必要に応じ注釈(●印)を加えたものです。注釈のない場合でも、道路改修や施設整備等により記載内容が現状と大きく異なっている場合がありますので、ご注意ください。