生石高原の麓から

和歌山の歴史・文化・伝承などを気ままに書き連ねています

漫画・アニメ「貧乏神が!」(開智中学校・高等学校)

 「フィクションの中の和歌山」というカテゴリーでは、小説や映画、アニメなどで取り上げられた和歌山の風景や人物などを順次取り上げています。

 

 今回は和歌山県出身の漫画家・助野嘉昭(すけの よしあき)による漫画・TVアニメ作品「貧乏神が!」を紹介します。

 この作品では、主人公である桜市子(さくら いちこ)が通う高校のモデルとなったのが和歌山市開智(かいち)中学校・高等学校であるということが良く知られています。

貧乏神が! - サンライズワールド

 「貧乏神が!(びんぼうがみが!)」は、集英社の月刊漫画雑誌「ジャンプスクエア」で2008年から2013年まで連載された漫画作品です。この連載が人気を博したため、2012年にはガンダムシリーズなどで知られるサンライズの制作によりアニメ化されることになりました。アニメ関係のニュースサイトでは制作決定について次のように報道されており、相当強力なスタッフ陣が揃えられたようです。

 若い世代から支持を集めるマンガ雑誌ジャンプSQ.集英社に連載中の人気コメディ作品が、強力スタッフでテレビアニメ化されることになった。助野嘉昭さん原作の『貧乏神が!』だ。
 本作は2008年に連載をスタートし、多くのファンの支持を集める。原作は2012年4月現在で単行本の累計発行部数が100万部を突破するほどの勢いになっている。今回は、満を持してのテレビアニメ化発表となった。

 作品はとりわけ10代後半から20代の男性に人気を獲得している。人気の秘密は、幸福エナジーと不幸エナジーを駆使し繰り広げる美少女たちによる超ドタバタドラマとセクシーアクションである。さらにジャンプ作品ならではのパロディー描写も好評だ。
 そんな作品を映像化する制作スタッフ陣も、期待を高めるのに十分だ。アニメ『銀魂』で予想を超えるギャグの世界を生み出した藤田陽一監督を起用、シリーズ構成には『BLEACH』の下山健人さん、さらにキャラクターデザインを田辺謙司さんが担当する。話題作を多く手掛けるサンライズの制作もファンにはうれしい。

 『貧乏神が!』の中心となるのは、才色兼備だがタカビーで自分勝手な超絶ラッキーガールの市子、そして彼女に取り憑いた脱力系の貧乏神・紅葉である。幸福エナジーと不幸エナジーが激突する。
 愛も友情も信じない孤独な女子高生の市子は、様々な出会いを経て本当の幸福をゲットできるのか?放映開始は2012年夏から、この夏にまた楽しみな作品が増えた。

animeanime.jp

 

 基本的には上記引用にあるようにパロディ満載のちょっとセクシーなコメディ、という内容の作品なのですが、冒頭でも紹介したように物語の主要な舞台となる主人公が通う高校のモデルが和歌山市開智中学校・高等学校であるという点が、私にとっての最大の見所です。
 今から10年以上前の作品ですが、幸いなことにバンダイチャンネルで全話が配信されており、第一話は無料で視聴できるので、ここから「見所」をご紹介します。
貧乏神が! | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス

 これが主人公達の通う高校「仏女津市立泰庵高校(ぶつめつしりつ たいあんこうこう)」です。特徴的な三角形の屋根を持つ校舎が登場していますが、和歌山市の北部にお住まいの方なら誰もが「ああ、あの・・・!」と思い当たる節があるはずです。そう、これこそが開智中学校・高等学校のシンボル的な校舎なのです。

 この作品に開智中学校・高等学校が登場するのは、作者の助野嘉昭が同校出身であるからに他なりません。これについては、助野氏自身がTwitter(現在は"X")での投稿で前後の文脈は不明ながらも「貧乏神が!」に言及して「そうですそうです。僕の初連載作品です。アニメは色も着いて更に開智度が上がります」と述べていることからも明らかです。

 

 また、この学校だけではなく、アニメには他にも和歌山市内を思わせる風景が多数登場しているようで、下記の個人ブログでは紀の川六十谷橋(一昨年、この橋の隣にある水管橋が崩落して大規模な断水が発生したことで一躍有名になりました)などが登場していることを確認されています。

unyuuhyouki.hatenablog.com


 そんな助野氏について、Wikipediaでは「和歌山県出身」と紹介されているものの、その生い立ちなどについては「私立開智中学校・高等学校卒」とある以外に何も言及されていないのですが、同氏が2011年に「平成23年和歌山県文化表彰(文化奨励賞)」を受賞した際の資料(「功績」)では次のように紹介されていました。
助野嘉昭 - Wikipedia

助野嘉昭(すけの よしあき)
住所:大阪府吹田市
出身地:和歌山県海草郡紀美野町
生年:昭和56年


○業績及び経歴
昭和56年和歌山市に生まれ、美里町(現紀美野町で育つ。幼少期から絵を描くことに興味を抱き、小学1年生でコマ割漫画を描きはじめる。京都精華大学芸術学部マンガ学科ストーリーマンガコースを卒業後、平成18年に「帰って下さい。」が第71回手塚賞に入選、この作品は、「月刊少年ジャンプ」平成18年8月特大号に掲載される。 平成20年には「ジャンプスクエア」5月号で「ハイド博士の実験ノート」を発表。同年7月号からは、同誌において「貧乏神が!」の連載を開始し、その単行本は既に11巻に達し現在に至っている。(以下略)

和歌山県文化表彰受賞者一覧 | 和歌山県

 

 上記引用文にあるとおり、助野氏は2006年に「貧乏神が!」の原型となる「帰って下さい。」という作品で「第71回(平成18年度上半期)手塚賞」に入選しています。「漫画の神様手塚治虫の名を冠したこの賞は少年向けストーリー漫画の新人発掘を目的としたものですが、めったに入選作品が出ないことで有名で、2000年以降では、栗山武史未熟仙 - みじゅくせん - 」(2005年上期)、助野嘉昭帰って下さい。」(2006上期)、斉藤尚武ハンマーヘッド」(2007上期)、坂東直Real haunted HOUSE」(2016上期)のわずか4人しか受賞していません。
手塚賞 - Wikipedia


 もちろん、漫画の世界は一回賞を取っただけで成功が約束されるほど甘い物ではなく、その後も継続して作品を発表し続けることができる作家はごくわずかです。こうした世界の中で、助野氏手塚賞受賞作を更にブラッシュアップした作品「貧乏神が!」を5年間の長期にわたって連載し、アニメ化を果たしたばかりか、これに続いて発表した「双星の陰陽師(そうせいの おんみょうじ)」が更なる人気を獲得して現在まで10年にわたる長期連載作品となり、テレビ東京系で2016年から2017年にかけて全50話という異例なほど長期にわたるTVアニメ作品(「貧乏神が!」をはじめとする一般的なアニメ作品は、近年では「1クール」と呼ばれる全11話~13話で構成される作品がほとんどである)が放送されました。

jumpsq.shueisha.co.jp

 

 結果的にみれば完全なサクセス・ストーリーと言える経歴ですが、決してその道は平坦なものではなかったようで、助野氏は同じく漫画家である田中圭一のインタビューに答えてこの頃のことを次のように語っています。

-では、アシスタントを辞めて、『ジャンプスクエア』が創刊されるまでに連載準備を始めていたんですか?

いえ、その頃は「貧乏神もの」を描くのを止められていて、別の作品を描いていました。『ジャンプスクエア』が始まってから、貧乏神ネタが解禁されたんです。それまでは、手塚賞で入選した『帰って下さい。』を超えようと苦戦していました。
自分で言うのも変なんですが、『帰って下さい。』は、いろんな意味で当時の自分のレベルを超えてしまっていた作品で、この作品以降、編集さんからの要求も上がって、すごくつらかったですね。

 

-確かに、手塚賞はなかなか「入選」が出ないことで有名な賞ですよね。

僕の時も「これは準入選でいいんじゃないの」という声があったそうですが、尾田栄一郎先生(筆者注:「ONE PIECE」の作者)稲垣理一郎先生(筆者注:「アイシールド21」「Dr.STONE」「トリリオンゲーム」などの原作者)がすごく推してくださったと、あとから聞きました。

(中略)

 

-ネタに行き詰まってつらい時に、「フォーマットやロジックでマンガが描けたらな」と考えることがあるのですが、やっぱりそれはパッションで作った作品には絶対に勝てないですよね。

確かにそうなんですけど、そこには若干の矛盾があって……。先人たちが作り上げて、洗練してきた物語のフォーマットというものは、確実に存在していると思うんです。ただ、それに則って描けば、いい作品ができるというものでもないのですが。
新人の頃に描かせてもらっていた読切作品は、ほとんどが「主人公が雑魚を倒して、その後に主人公の生い立ちが語られて、最後に強い敵が現れたところを倒してハッピーエンド」という作りになっていました。それに「つまらなさ」を感じていたんですね、自分の作品じゃないみたいで。それで苦しくなって、半年くらいマンガが描けなくなった時期があったんです。ちょっとノイローゼみたいになってしまい、漫画家を辞めようとさえ思ったこともありました。
その時に相談に行ったのが、京都精華大学竹宮惠子先生(筆者注:京都精華大学元学長、「風と木の詩」「地球(テラ)へ…」などの作者)でした。すごく親身に相談に乗っていただいて、ネームも見てもらって……。その時、先生に「学生の時でも、こんなに見てもらったことはないですよ」って言ったら、「それはあなたが訊きに来ないからよ」と言われたことが、強烈に印象に残っていますね。
そして、竹宮先生の助言で乗り越えてできあがった作品が、驚くことに、「自分が毛嫌いしていたはずのフォーマット」に乗っていたんです。

 

-一周して、原点というか、セオリーに戻ってきたわけですね。

はい。でも、初めからそういうフォーマットに乗せてストーリーを考えるのではなく、「ここで絶対に雑魚を倒す必要がある」「ここで絶対に一度挫折する必要がある」というストーリー上の必要条件が、“描き手の実感”を伴って盛り込まれていくことが必要なんだと思っています。
(以下略)

田中圭一×『双星の陰陽師』助野嘉昭先生インタビュー 

 

 助野氏は昭和56年(1981)生まれということですので、現在まだ42歳。既に2作の長期連載作品を持つ人気漫画家ですが、年齢的にはまだまだ若手の部類に入りますから今後ますますの活躍を期待したいものです。


 さて、助野氏和歌山市生まれながら紀美野町と育ったと伝えられていますが、同町からはもう一人、森本晃司(もりもと こうじ)というアニメ界の著名人が誕生しています。マニア以外にはそれほど知られていない人物ですが、業界関係者の間ではカリスマとしてきわめて高い評価を受けているアーティストですので、次項ではこの森本氏を紹介したいと思います。