生石高原の麓から

和歌山の歴史・文化・伝承などを気ままに書き連ねています

ゲーム界屈指の問題作・デスクリムゾン(友ヶ島)

 「フィクションの中の和歌山」というカテゴリーでは、小説や映画、アニメなどで取り上げられた和歌山の風景や人物などを順次取り上げています。

 

 今回は、エコールソフトウェアという会社が1996年に発売した「デスクリムゾン」というゲームを紹介します。

 このゲームはセガ・エンタープライゼス(現在は株式会社セガの家庭用ゲーム機「セガサターン」向けに発売されたもので、そのオープニングムービーに友ヶ島が登場することで知られる作品です。
 それだけならあまり珍しいとは言えないのでしょうが、実はこのゲームは後述のようにちょっと変わった理由で日本のゲーム史に残る話題作(問題作?)となったことから、発売から30年近くが経過した現在でも友ヶ島は「デスクリムゾンの聖地」として多くのファンに親しまれているのです。

デスクリムゾン」のパッケージ
作品の履歴 – エコールHPへようこそ

 あまり上品な言葉ではありませんが、コンピュータゲームの世界には「クソゲー(糞ゲー)」という言葉が存在します。これは、商品として販売されているゲームの中でも特に「つまらないゲーム」「出来の悪いゲーム」を指す蔑称として用いられる言葉です※1。ところが、こうした低評価を受けるゲームの中には、時として「あまりにも出来が悪いが故に、それが逆に一周回って面白い」ということでマニアックなファンから好意をもって受け入れられる作品が誕生することがあります。
※1 クソゲー - Wikipedia

 

 この「デスクリムゾン」はこうしたゲームの筆頭とも言える作品で、後に「クソゲーの帝王」「最下位帝王」「デス様」「クソゲー界の征夷大将軍」など、様々な呼び名を与えられることとなりました※2。そればかりか、続編が制作されたり、現代美術のモチーフとなるなど※3、様々な関連作品やイベントが次々に送り出されて制作会社・エコールソフトウェアの看板作品となったのです。
※2 デスクリムゾン#概要 - Wikipedia
※3 デスクリムゾン#その後 - Wikipedia

 

 こうした異例の人気を得た「デスクリムゾン」ですが、冒頭にも記したように友ヶ島が登場するのはゲーム本編ではなく、オープニングムービーです。このムービーは主人公・コンバット越前の回想シーンとなっており、どうやらここで主人公たちは謎の敵と戦っていたようなのですが、そのシーンこそがこのゲームを「クソゲー」たらしめた最大のポイントとなっているのです。

 

 様々なゲームの情報をまとめたサイト「ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~」では、この作品のオープニングムービーについて次のように解説されています。

  • 越前の回想を描いたオープニングムービーは、今や伝説となっており、中には数秒見ただけで分かる人すらいる。
    ・ムービーの前半部分は実写。回想シーンということもあり色調はセピア色で画質も悪い。ちなみにロケ地は和歌山県和歌山市加太の友ヶ島に残る由良要塞跡であり、先述の真鍋社長(筆者注:エコールソフトウェアの社長)が一人で島へ渡って撮影したという。
    ・それを知って実際にその島へ行った人もいるのだとか…。実際に動画サイトにはその様子が動画として残っている。
  • このシーンでの越前は傭兵という設定であるが、声を当てているのは傭兵のイメージとはかけ離れた甲高い声質の声優。オープニングナレーターは低めの声質なので、そのギャップは凄まじい。
  • 銃声が飛び交うなか、越前が「ダニー! グレッグ! 生きてるか!?」と叫び、仲間キャラが「ああ、なんとかな!」と応える。が、結局はどちらも甲高い声質であり、少し聞いただけでも同じ声優が演じていることは明らかだ。後者「ああ、なんとかな!」はかなりしわがれた声で、別人を演じようとしている努力は伝わるので批判の声は少ない。
    ・この場面は常時一人称視点で描かれており、視界の中に他の登場人物が映りこんだりすることもないため、どの台詞を誰が喋っているのか全く分からない。「ああ、なんとかな!」と答えたのがダニーなのかグレッグなのかも分からないし、そもそも演じている声優が同じであることもあって、延々と独り言を喋っているだけだと誤解してしまったプレイヤーさえいた。
  • 上から来るぞ! 気をつけろぉ!」と言いながら階段を駆け上がる越前。上から来るのだから階段を駆け上がるのは危険、しかし上へ向かう必要があるので「気をつけろ」なのだろう、とでも解釈するしかない。
    ・この「上から来るぞ! 気をつけろぉ!」は有名な台詞だが、実はよく聞くと「気をつけろよ」と言っている。
  • 何だこの階段はぁ?」と言いながら、一瞬たりとも躊躇せず階段を降りる越前
    ・ちなみに階段そのものは、何の変哲もないただの階段だ。続編『デスクリムゾン2』によるとやたら急な階段らしいが…。
    ・「思わぬ場所で階段を発見した」という意味であることは一応分かるが、こんな言い回しでは「階段に見慣れない特徴がある」と受け取られるのが自然だ。単に「ここに階段があるぞ!」とかで十分だろうに。
  • 階段を降りたところで実写パートは終了。謎の扉を前にしたゲーム画面に変わり、この扉の前でゲーム史に刻まれたあの迷言せっかくだから、俺はこの 赤の扉 を選ぶぜ!」が放たれる。
    何が「せっかく」なのかは永遠の謎であり、選ぶも何も扉は一つしかなく、そして後述するが赤くない。たった1フレーズでこれほどの突っ込みどころを含んだセリフもそうそうあるまい。
    (中略)
  • 一連のムービーは、10年前に傭兵だった越前クリムゾンを手に入れた経緯を描いている筈なのだが、内容が断片的過ぎて全く説明になっていない。

    ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~

 

 動画サイトなどで「デスクリムゾン オープニング」と検索していただくと上記のオープニングムービーがいくつもアップロードされているのがわかりますが、ここでは比較的高画質と思われる動画を一つ紹介しておきます。上記のような「ツッコミ」に注意してご覧いただくと、よりその出来の悪さが実感できるのではないかと思います(苦笑)。

www.youtube.com

 

 しかしながらその不出来さ故の面白さは現在もなおマニアを魅了しているようで、現在でも「デスクリムゾン」の舞台を訪ねて「聖地巡礼」する人々は絶えないようです。下記のリンク先の記事はいずれも比較的最近掲載されたもののようですが、ゲームに登場するコンバット越前の回想シーンと現実の友ヶ島の風景とを並べて紹介してくれているので、これから聖地巡礼をしようとする人々には格好のガイドになっていると言えるでしょう。
聖地探訪見聞録 デスクリムゾン 聖地巡礼
【聖地巡礼】デスクリムゾン@和歌山県・友ヶ島 - 気ままにダンス。

 

 以前、「紀州藩の海防政策と勝海舟」という項で紹介したとおり、幕末期に諸外国から開国の圧力を受けていた徳川幕府は全国各地に異国船を打ち払うための「台場砲台を設置する施設)」を設けました。このとき、加太や友ヶ島にも台場が設けられましたが、これらの施設は後に明治政府によって大阪湾防衛のための重要施設として拡充が進められ、第二次世界大戦終了まで「由良要塞(加太・深山地区と対岸の淡路島由良地区を含む軍事施設の総称)」として軍の管理下に置かれていました。

 デスクリムゾンの「聖地」とされる場所は、こうした施設群の中でも特に当時の姿を良くとどめている「第三砲台跡」が中心となっており、ゲームとは関係なく現在も多くの観光客が訪れる人気スポットとなっています。

由良要塞跡(友ヶ島第3砲台跡) | 和歌山市の文化財

 ちなみに、2006年に発売されたPlayStation2向けのホラーゲーム「Siren2(サイレン2 ソニー・コンピュータエンタテインメント」にも友ヶ島が登場しており、友ヶ島を「Siren2の聖地」と呼ぶ人もいるようですが、こちらではゲームの舞台となる「夜見島(やみじま)」の主なモデルは軍艦島長崎県とされており、一部の風景に友ヶ島が登場するものの、残念ながら「Siren2の舞台が友ヶ島」とまでは言えないようです。
夜見島のモデル?「軍艦島」と「友ヶ島第三砲台跡」 | 黒しばわんこの戦跡ガイド

 

 近年では、友ヶ島と言えば漫画・アニメの人気作となった「サマータイムレンダ」の聖地として取り上げられる機会が多くなりましたが、それよりもはるか以前から友ヶ島は聖地であったのですよ。
サマータイムレンダ × 和歌山県